宇宙・地球・生命の謎
第1章:“人類が生まれるための12の偶然”
眞 淳平 (著),? 松井孝典 (監修,監修) 岩波新書
“ビッグバンから銀河系や地球の誕生、生命の発生、人類の進化と続く一連の過程の中で起きた「偶然」に迫り、宇宙と命の不思議、宇宙と生命の秘密を解説されています
ジュニア向けですから、私たち素人にも解りやすく、実に魅力的な本でした
この本の冒頭では、“宇宙誕生”について簡潔に纏められています
宇宙の誕生は137億年前と言われます、宇宙はどのようにして出来たのか?
(詳しくは第2章:“インフレーション理論”で見ていきます)
宇宙誕生10の44乗分の1秒後 “真空のエネルギー”で急激なインフレーションが始まる
10の33乗分の1秒後まで(大きさは10の34乗分の1pから1pまで)
インフレーション→密度の低下→急激な温度低下(相転移現象)
宇宙は超高温の“火の玉”へ(ビッグバン)
但しインフレーション時代以降も比較的緩やかな膨張を続け、30数億年前から更に加速
10の8乗(1億分)分の1秒後
4つの力(重力「万有引力」、電磁気力、強い相互作用、弱い相互作用)の分離と
クオークなど“素粒子”誕生
(素粒子と反粒子の“対生成”と“対消滅”の中で“CP対称性の破れ”で残った素粒子)
素粒子が合体して陽子・中性子の誕生、陽子・中性子が合体して重水素の原子核(重陽子)誕生
重陽子同士がぶつかり“ヘリウム3”更に“ヘリウム4”の原子核誕生
宇宙誕生38万年後、宇宙温度は3000度前後に低下
(光の乱反射が収まり宇宙の晴れ上がり)
電子が原子核にとらえられ、水素・重水素・ヘリウムなど“原子”が誕生
数億年後 水素・ヘリウムガスなどの“偏り”によって質量が質量を呼び星(恒星)となった
恒星内部が巨大な圧力で温度が急上昇、膨大なエネルギーを放出(核融合)諸元素誕生
250万度を超えた辺りから重陽子同士が融合
1000万度を超えると水素の核融合
1億度をこえて生物に必須の炭素(ヘリウム4が3個衝突)や酸素・諸金属などを生成
宇宙年表:多田将先生の “宇宙のはじまり”より
今日の宇宙は様々な偶然によって生成されました
(でも偶然であったとしても、その偶然の結果生き残った我々からすれば、もこと神の御技のごとき必然を感じます。我々の存在を必然ならしめた12の偶然を見ていきましょう)
偶然1:宇宙を決定する”自然定数”が現在の値になったこと
宇宙が生み出されるには、重力など4つの力の値、中性子や陽子の質量と言った様々な“自然乗数”が何故か、生命を生み出すためにピッタリのものだった
偶然2:太陽の大きさが大きすぎなかったこと
太陽系の形成(微惑星仮説)
高密度のガスやチリ、重力と遠心力の作用で、太陽と同じ質量の星の寿命は110億年程度
(現在46億年程度経過して、膨張を続けている、その間に生命が育まれた)
大きすぎる星は寿命が短い
偶然3:太陽からの距離が適切なものだったこと
その距離が、地球表面の”水”が液体でいられるものだった
偶然4:木星、土星という二つの巨大惑星があったこと
隕石を自らに衝突させてくれて、地球を救った
偶然5:月という衛星が地球のそばを回っていたこと
月がなければ地球の自転はもっと早くなり、1日のサイクルはずっと短くなった
そのため強風が常に吹き荒れ、生命存在を脅かした
地球に起きたさまざまな偶然もある
偶然6:地球が適度な大きさであったこと
地球が今より大きければ、重力が大きくなり、その影響で生命の環境も変わっていた
小さければ生命に必要な気体が宇宙に逃げ出していた
また大気が隕石の衝突から生命を守ってきた
偶然7:二酸化炭素を必要に応じて減らす仕組があったこと
誕生直後 微惑星などの衝突で水や2酸化炭素が蒸発して厚い層を形成、
温室効果で表面温度は約1500度のマグマ
徐々に温度が下がり冷えた水蒸気が水となって地表に降り注ぐ、数億年の雨で地表に海(水の惑星)
大気に残った二酸化炭素が温室効果で温度を上げ海水も蒸発するところ
海水が逆に二酸化炭素を吸収、マグマから出たカルシウムやマグネシウムと結びつき炭酸カルシウム(石灰岩)や炭酸マグネシウムとなって海底に沈積、”プレートテクトニクス”の働きで地球の中に潜り込んだ
プレートテクトニクス:
固体地球の表面が十数個のかたい板(プレートplate)によってすきまなく覆われていて,それらの板どうしの相対運動に基づいて板と板との境界に沿って種々の地学現象が引き起こされるとする考え
こうして大気中の二酸化炭素が急減、地表の温度も下がった
地球にしかない移動する”プレート”が生命の源である海の存続につながった
さらにその後も、太陽の明るさが増すのと平行して、海が少しずつ二酸化炭素を吸収し、地球の温度上昇を防いでいる
偶然8:地磁気が存在していたこと
太陽系外から来る”銀河宇宙船”や太陽から来るプラズマ”太陽風”、これら生命を傷つける放射線から地球の生物を守っている”地磁気”
地磁気:地球の内部にある金属層(中心核)の流れが生み出す巨大な磁気
偶然9:オゾン層が誕生したこと
紫外線が酸素分子を2つの酸素原子に分解し、それらが別の酸素分子と結びついてオゾン分子が生成される。さらにオゾン分子は紫外線によって酸素分子と酸素原子に分解する、オゾン層はこうした過程の中で地表に届く紫外線の割合を少なくしている
偶然10:地球に豊富な液体の水が存在したこと
水が”液体”状態である事がポイント
水は4度でもっとも重くなる(氷は水に浮く)ことで多くの水中生物が冬の間に氷づけになることを免れてきた
水は多くの物質を溶かす、水に生物に必要な多くの物質が溶け込んでいる
高い融点と沸点
沸点・融点が現在より低かったら、地球の表面で水はすべて気体になる、地球に雨も水も存在せず、
初期の地球で大気中の二酸化炭素を吸収することもなかったろう
比熱(温度の変わりにくさ)が大きいという水の特徴は地域ごとの温度差を緩和することで地球環境を穏やかで生物にとって優しいものにする働きをする
水にはこのような特性がある理由を、この本で詳細にわたって説明しています
偶然11 生物の大絶滅が起きたこと(詳しくは第4章:地球の生命へ)
大量絶滅ビッグファイブ
オルドビス紀末、デボン紀末、ベルム紀末、三畳紀末、白亜紀末
たとえばベルム紀末のプレートテクトニクス説
海洋プレートがバンゲア超大陸にぶつかりコールドプルームがコアマントル境界に落下
→スーパープルームの上昇→異常火山活動→二酸化炭素・メタンガス等大量発生
→急激な温度上昇、酸素欠乏など環境の激変→生物大絶滅
→環境に適応できた生物による支配交代
逆に言えば大絶滅が無ければ人類の存在、繁栄はなかった
偶然12 定住と農業を始める時期に、温暖で安定した気候になったこと
人類定住・農業は地球の温暖化によって可能になった(詳しくは第5章:人類誕生へ)
何故このような偶然が起こったか?
たとえば”自然定数”の偶然は何故起こったか
@ 宇宙は偶然こうした姿になった
A 神様が今のような姿にすべく決めた
B 何らかのメカニズムによって必然的に今のような姿になった
C 宇宙は無数に存在する、この宇宙ではたまたま現在の自然定数が決まり、それに基づいて宇宙の姿が決定された
著者の結論
脅威の偶然のお陰で我々は存在する
一方 地球規模での気候変動、核戦争、バイオ、人類絶滅の危険は多様に有る
”地球に優しく”と言う言葉はナンセンスだろう
もしも人類が絶滅しても、やがて生き残った生物が進化、地球は新たな生態系を育むだろう
人類は取り替えのきかない存在ではない
だから問われるべくは、我々自身が滅びないため我々は何をすべきかである